絵画で読み解く

民衆社会、市民社会の中を歩く

最晩年にヨルダーンスを模したゴッホ

フィンセント・ファン・ゴッホ『牛(ヨルダーンスを模して)』1890年6月〜7月、リール美術館蔵

ヤーコブ・ヨルダーンス『習作、5頭の牛』リール美術館蔵

リール美術館にあったヤーコブ・ヨルダーンス(1593ー1678)の習作の絵を、医師ガッシェがコピーしたドライポイントをもとに描いたようだ。

ゴッホは1890年7月29日に亡くなているので、最晩年の作品の一つだといえる。

ヨルダーンスはアントウェルペンの人で、現在の国としてはベルギーということになるが、ベルギー、オランダはネーデルラントが二つに分裂しただけの土地なので、ゴッホにとっては故郷の匂いのする画家に違いない。

ヨルダーンスの作品を模しながら、ゴッホネーデルラントの土の匂いを味わっていたのではないだろうか。

アイロンをかける女に、近代市民社会の全重力がのしかかる

パブロ・ピカソ『アイロンをかける女』1904年、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館

下層階級の民衆の姿は、初期のピカソでは陽気さを失う。女はアイロンをかけてるというのではなく、アイロンに縛り付けられているのだ。細い身体に近代市民社会の全重力がのしかかる。

社会の底辺で働く人々に美を発見したドガ

エドガー・ドガ『アイロンをかける二人の女』1884〜86年頃、オルセー美術館

ドガの描く洗濯女たちは、うんざりしながら、それでもたくましく仕事をしていた。近代市民社会の底辺で働く人々に、ドガは新しい美を感じ、表現しようとしたのだ。

ステップを踏むかのような洗濯女

フェリックス・ヴァロットン『洗濯女』1895年、個人蔵

ピエール・ボナールに引き続き、同じナビ派のフェリックス・ヴァロットンによる「洗濯女」。まるで跳ねるように洗濯女はパリの街を行く。重い洗濯物を抱えながら、足取りはステップを踏んでいるようだ。

日本かぶれのボナールの絵

ピエール・ボナール『小さな洗濯女』1891年、オルセー美術館

ボナールは「ナビ・ジャポナール」(日本かぶれのナビ、日本的なナビ)と呼ばれた。

ナビはヘブライ語預言者を意味する言葉。ナビ派(ナビは、Les Nabis)は、19世紀末のパリで活動した、前衛的な芸術家の集団。

ボナールの絵からは、浮世絵の心地よさが伝わる。

17世紀オランダで描かれた民衆生活

ヘラルト・テル・ボルフ『石臼挽き職人の家族』1653-55年頃、 ベルリン絵画館蔵

17世紀オランダ絵画黄金時代の絵画。落ち着いた民衆生活が描かれている。民衆生活が価値を持ったものとして描かれるようになる。

糸紡ぎで運命をつかさどる老婆

フランシスコ・デ・ゴヤ『糸紡ぎをする老婆』1819年、メトロポリタン美術館

1819年にゴヤマドリード郊外に「聾者の家」と通称される別荘を購入した。この「聾者の家」で14点の「黒い絵」のシリーズが描かれる。この絵は別荘を購入した時期に描かれたもの。 糸紡ぎをする老婆は、おそらく運命をつかさどる存在なのであろう。「黒い絵」を描く前の、ゴヤの決意をあらわすものなのだろうか。